ひまわりの太陽は私じゃない 冒頭サンプル


※ジャクレオ卒業後同棲済時系列
※ジャクレオの職業捏造
※7割ジャックガチ恋モブ目線


 Side:L

 机の上に山と積まれた書類に目を通し続け、気疲れを装って壁にかかったモニタの電源を入れる。予め合わせていたチャンネルがパッとつけられた画面上にあまり予算がかけられていなさそうなスタジオを映し出した。
 夕焼けの草原では多少認知度の高い、ニュースとバラエティの合いの子のようなローカル番組。今日のゲストはこちら、と司会者が紹介した先で『目当て』は僅かに緊張の色をにじませ固まっていた。
 どこか面白げにニヤニヤ笑いながらこちらへと顔を向ける副官の視線は綺麗に無視し、俺は口元を引き結んで画面の中の様子を眺める。
 左上に映るLIVEの文字に、終わったらねぎらいの電話の一つでもかけてやろうか、などと考えながら止まっていた手の動きを再開させはじめた俺の耳に、その言葉は飛び込んできた。

『ジャック選手の得意なスポーツは、スノーボードとのことですが。どうしてマジフト選手になられたのでしょうか?』
『俺がマジフトで活躍すると大切な人が笑ってくれるから、ですね!』
 先程までの緊張はどこへいった、とばかりに大きな声で言い放たれた言葉に、俺は動きを止め、そんな俺に副官の視線がこれでもかと突き刺さる。
「うるせえぞラギー」
「何も言ってないでしょ。……あーあ、こりゃ今夜はどのSNSも荒れるッスよ~」
 どこか面白がるような言葉に、俺は鼻を鳴らした。

*  

「ジャック、俺が何を言いたいか、わかってるよな?」
「へっ?」
 仕事を終わらせ家に戻った俺は、出迎えたジャックに開口一番そう言い放った。抱きしめようとしていた腕を止め、不思議そうにジャックは首を傾げる。
 まあ、そうだ。こいつはこういう奴だった。
 首を傾げたまま一向に元に戻す様子のない相手にため息を吐き、俺は軽くその体を押しのけてリビングへ向かう。
 そのままソファに腰を下ろし、こちらを見つめ立ったままの相手へちらりと視線を向けた。
「今日の番組、見た」
「ほんとですか!」
 ぱぁ、と嬉しげな顔をする犬っころは、しかしすぐ耳を伏せて頬をかいた。
「俺緊張してあんま覚えてないんですけど。変な事、言ってませんでした?」
 そんなことだろうと思ったと、俺は再び息を吐いた。
 あの番組の後からスマホに知り合いからの連絡がピロンピロンと五月蝿いったらなかった。番組が終わった後に掛けようと思っていた連絡を取りやめて私用スマホの電源を落としたぐらいだ。
 それぐらい特大の問題発言を、よりにもよってこいつは自覚なく吐き出したのだ。
「ジャック……大切な人が笑うから、ってのは、何のつもりだ」
「え? ……あ、マジフト選手やってる理由ですか」
「それだそれ。そんなもん、あー……憧れの人がやってたので、とかでいいだろうが」
 くしゃ、と前髪をかきあげながら隣に座ってきたジャックを睨めつければ、俺の体を抱き寄せながらジャックはニカッと人好きのする笑みを浮かべる。
「まあそれも嘘じゃないですけど、今はそっちがホントの理由ですし」
「……俺はそんな笑ってねぇ」
「俺の大切な人がアンタだって自覚があるようで、嬉しいです」
「ッ……」
 ああ言えばこう言う。
 随分可愛げのない犬に育っちまったと思いながら、俺は相手にもたれかかり、肩に頬を寄せる。帰ってきたばかりの相手からはほんのりと汗のにおいがした。
「……毎日抱きしめられてんのに自覚しない程鈍くはねぇよ」
 そう小さく囁いた声が相手に聞こえたかは知ったこっちゃねぇが、視界の端に映った尻尾はばたばたと嬉しげに揺れていた。それはもはや日常的な光景で、多分俺は贅沢になっちまったんだろう。
 ひまわりみたいな笑顔を常に自分に向けてくる男の、太陽がずっと俺であればいいと思っている。
 こいつは俺のものだ。
 だからジャック、お前にはもっとそれを自覚してもらうし、世間にもそう示さなきゃなんねぇな?
 恨むなら、悪い男に惚れちまった自分を恨めよと思いながら、俺は生意気で可愛い仔犬の頭を抱き寄せて口付けた。

 Side:M

『俺がマジフトで活躍すると大切な人が笑ってくれるから、ですね!』
 期待の新人、ジャック・ハウルがとあるローカル番組で放った言葉は、質問と共に切り取られ瞬く間にSNSに拡散された。
 立派な体格とは裏腹に成人したばかりのどこか子供っぽさを残した顔が、くしゃりと大事な宝物を披露するように浮かべた笑みと朗々とした言葉は、彼を知らなかった層にまで届き、ほんの一時ウェブの話題を占めて消費された後、殆どの人間の記憶の片隅に追いやられた。
 もちろん、いつまでも覚えて話題に出す人間がいないわけではない。
 当事者や、少なくない数の知り合い。
 そして――
 ジャック・ハウルのファンなどだ。



「大切な人って誰よ…!?」
「そりゃー恋人でしょ。フツーに考えたら、あんな優良物件とっくに売約済みだって」
「あんな純情ボーイがそんな」
「純情ボーイって」
 バーカウンターでノンアルコールドリンクのグラスを握り締めてくだを巻く私に、友人は吹き出した。
 ガタイがよく顔つきも鋭いから、ジャックをよく知らない友人や家族は私がそう言う度にそういう反応を見せる。彼らは知らないから。
 でも私は、最初にテレビをザッピングしていた時にインタビューを受けている彼のワイルドな外見とは裏腹に真面目で熱い口調に興味を惹かれて彼の事を調べて知っているのだ。
 彼は今時珍しくSNSのアカウントこそ持っていないけれど、顔が良くて若く実力もありマジフト雑誌やスポーツ番組に引っ張りだこだ。そうして呼ばれた先のインタビューで時折そういう話題に触れられる度に、戸惑うような照れたような顔をする。雑誌でも注釈がつくぐらい、あからさまに。
 ――これが純情じゃなくてなんなのか!
「いやだからその反応こそさあ、恋人がいるのを誤魔化してたんじゃん」
「うるせ~~~」
「うるさいのはアンタ」
 笑いながら友人は私の空になったグラスに水を注ぐ。酔ってないしとジト目で見つめれば、失恋した自分に酔ってるじゃんと鼻で笑われた。
「失恋じゃないし、ジャックはフリーだし」
「あきらめなって。……さっきマジカメでバズてった情報、まだ知らないな? さては」
 私をからかうような口調で、それでもどこか気遣いの色を見せながら彼女は私に問う。
「バズってた情報?」
「あのヴィル・シェーンハイトが恋人じゃないか、って情報よ」
 鞄からタブレットを取り出した友人は、慣れた手つきで液晶を操作してマジカメの画面を私の前へ突き出した。

 曰く、ジャックと出身が同じマルチタレントのヴィルが、生放送で先日の活躍について尋ねられた際におめでとうと微笑んだ、のだそうだ。
「かなり決定的じゃない?」
 私を見ながら友人が言葉を重ねる。けれど私は首を横に振った。
「ヴィルは、確かにジャックと仲がいいって話だけど……そもそも幼馴染で、学生時代の先輩なんだよ」
「出た、ジャックペディア」
「これぐらいは常識!」
 揶揄うような友人の言葉に、私は肩を竦める。ジャックのファンになったばかりのひよっこすら知ってる、初歩の初歩だ。
 ヴィルの知名度もあり、インタビューで話題にとりあげられる事は少なくないが、ジャックの反応は一律尊敬している仲の良い先輩、というもので、そういう色恋が絡んでいる風ではなかった。
「だから、絶対に違う!」

冒頭抜粋了